「完璧な」銭湯。
少し久しぶりに銭湯へ行った。
いつものようにのれんをくぐって入り、金を払おうとする俺に番台のおばちゃんが言った。
「最近お客が減ってきたから、明日から30分早く閉めるよ。明日から早く来てな。」
どうしても残業で帰宅が遅くなりがちの俺に、30分早い店じまいは辛い。
しかし今時風呂が無いアパートなんてないし、家庭のお風呂も広くなったんだろうな。
残念だが、銭湯に人がこなくなるのは仕方ないのかなぁ。
俺はこの銭湯が大好きだ。
確かに住んでるアパートの風呂ががユニットバスで狭いというのもある。
しかし、それだけじゃないものがある。
お約束のような番台の無愛想なおばちゃんも、木で出来た古ぼけたロッカーも、ありきたりの露天風呂も、天井のでっかい扇風機も、全てが完璧な銭湯なのだ。
そして俺の一番のお気に入りは、浴槽にある石のカエルだ。
カラダを洗ったあと、いつも最初に入る浴槽の傍らにそいつがいる。
少し乾いたカエルにお湯を掛けてやりながら、声に出さずに話しかける。
「なぁおい。元気かよ。俺ぁ、今日もつかれたよ...」
湯に浸かってユーモラスで憎めないそのカエルの顔を眺めていると、なんだか妙に落ち着くのである。
あまりに気に入りすぎて、おばちゃんに譲ってもらえないか交渉しようと思ったこともあるくらいだ。
これ以上店じまいが早くならないように、もっとたくさん足を運ぶことにしよう。